~マッシュアップされさらに拡大する拡張現実の世界
Vol. 397 2010/05/13
伊藤 香代子
2009年12月に全世界に向けリリースされ一気に話題となった「セカイカメラ」。スマートフォンを持っていなくても知っている方、多いのではないでしょうか。当時、ニュースで紹介されていた近未来的な画像を見てとても衝撃を受けた記憶があります。
今回は、その「セカイカメラ」のブレイクによってより注目を集めている技術「AR(拡張現実)」について取り上げたいと思います。
●「セカイカメラ」について
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「セカイカメラ v2.3.0 リリース」 |
「セカイカメラ」は、日本のベンチャー企業、頓智・(とんちどっと)が開発したiPhoneやAndroidで利用することのできるアプリケーションです。日常のある場所をセカイカメラごしに見ると、他の誰かがそこに残した情報(エアタグ)が仮想的な映像(文字や画像など様々な情報)として浮かび上がってくる訳なのですが、画面を見るだけで、そのまま自分の情報として得られるその世界観はちょっとした近未来的な感覚です。
そしてそのサービスを現実化した技術が「AR(拡張現実)」です。
●AR(拡張現実)とは
ARとは、Augmented Reality の略です。テクノロジーによって、目前に広がる実在する空間と私達の視覚や聴覚に有用な映像や音楽、文字などさまざまな情報とを重ね合わせる技術です。言葉で説明するとイメージしにくいですが、日本人ならば漫画やアニメでよく目にしているかも知れません。「ドラゴンボール」のスカウター(相手の戦闘力を見ることの出来る片眼鏡形の表示装置)はARを表現する際によく使われます。最近のものならば「電脳コイル」の電脳メガネや「東のエデン」の携帯に出てくる世界観はまんまそのものともいえます。
ARの研究の歴史は実は長く、1960年代には「The Ultimate Display」と呼ばれるヘッドマウントディスプレー(HMD)が開発されています。これが最初のARと言われています。その本質は、「ユーザの周囲の状況をコンピューターが察知し、最適な情報を提供する『Context-Aware Computing』を実現し、ユーザの活動を支援するユーザー・インタフェースの技術」であるということなので、ARを実現するデバイスは今後その時のテクノロジーに合わせて様々に変化・成長していくといえます。
今回、ARがiPhoneに実装され、セカイカメラによって一般ユーザに浸透したということがとても革新的に思います。
●ARは、日常を大きく省略する技術?
その技術がいかに斬新であるかは次のような比較をすると現実感があるかも知れません。
通常、私たちが目的地を目指す場合にどのような過程をたどるでしょうか。
その際に行うフローは次のようになります。
パソコンを開く
→ブラウザを立ち上げる
→地図サイトを開く
→目的地の住所を入力する
→地図を表示
→地図を印刷
→地図を見ながら目的地を目指す
このフローが、ARを利用することで次のようになります。
ARソフトが内蔵されたハードで目的地を映す
→AR表示に従って目的地へ向かう
非常に端的。そしてフローは大きく省略されました。
今までは部屋の中でキーボードを打ってwebにアクセスして検索をしていたところから、それが室内で検索(Search)ではなく、外で「見る」だけでリアルタイムな情報が得られて、しかもその場所を訪れた人たちと時間を超えて情報を共有することが出来る。これは今までにない体験であるのは間違いありません。
●何故今、ARが脚光を浴びているのか?
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| 「セカイカメラで物件情報を確認できる」 |
高度な情報処理や画像処理が必要となる為、大掛かりなハードウエアを必要としていたAR技術でしたが、現代人にとって最も身近な携帯が、高度な処理能力と通信・表示機能を持っている機器―iPhoneをはじめとする高性能のスマートフォンとして進化し普及したことが大きいでしょう。GPSと街中に飛び交う無線LANの電波から、今居る場所を正確に計測することも可能となりました。ようやく拡張現実の技術が実用化できるフォーマットが整ったといえます。
また、広告は位置情報連携の時代へ突入しています。ARでなら屋外広告と媒体広告の美味しいとこどりができる上、しかもリアルスペースでリアルタイムにアピール出来る広告が話題性もあり訴求力が高いのは言うまでもありません。広告業界からの期待も高いと言えます。
ARは複数の言語で複数のライブラリがオープンソースとしてすでに存在しています。開発者には得意な言語のライブラリを使ってARソフトウェアを開発することが出来る環境が整っているといます。先に挙げたセカイカメラについては、2010年3月4日にiPhone向けの拡張現実(AR)サービス「セカイカメラ」向けコンテンツを開発するためのAPIを公開しています。
ARには既存のWebサービス・概念・製品とマッシュアップすることによって、予想もつかない方向に発展していく可能性があります。
・「ARによる新しいエンターテイメントの形」(ASCII.jp)
http://ascii.jp/elem/000/000/513/513180/
・「ネクスト、HOME'Sの物件情報を「セカイカメラ」と「Layar」に提供」(ITmedia)
http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/1003/04/news086.html
経済産業省の「e空間実証事業プロジェクト」の一環としてiPhoneを用いた渋谷地区の店舗情報などを取り入れた実証実験も行われました。官民ともにその注目度の高さがうかがえます。
・「pin@clip(ピナクリ)」(実証実験は2010年3月10日に終了)
http://pinaclip.jp/
●ARの抱える課題
多くの発展の可能性が広がるARの技術ですが、まだ課題も多くあります。
サービスの盛り上がりに伴い議論の必要性を唱える声も高まっているようです。
というのもあくまで現実空間を電子情報で「拡張」する技術な為、現実の土地とひも付いたコンテンツを表示する権利は一体誰にあるのか?、また表示されるコンテンツの内容によっては、その場所にそのコンテンツはふさわしくないというようなトラブルも当然起きてくると問題提起もされています。
・「『AR空間は誰のもの?』――『ARを規制する法律はない』と牧野弁護士」(ITmedia)
http://www.itmedia.co.jp/promobile/articles/1003/12/news040.html
現状はそれを規制する法律は存在しないため、それに伴って、ARサービスを行う上での「時空間情報」の運用ルールを取りまとめようと実証実験を行う動きも起きています。
・「位置情報やARの“ルール”探る ソフトバンクテレコムがiPhoneで実証実験」(ITmedia)
http://www.itmedia.co.jp/promobile/articles/1002/03/news087.html
奇しくもAppleの新型携帯端末「iPad」が4月に米国で発売されました。
便利さと楽しさが共存するARには、業界や使用目的、そのデバイスも限定されない自由度の高さがあります。ARを利用したサービスは、今後様々な用途で加速度的に増えていくことは間違いないかと思います。
参考:
「頓知ドット」http://www.tonchidot.com/
「これなら分かるAR(拡張現実)」(@IT)
http://www.atmarkit.co.jp/fwcr/design/tool/ar01/01.html
「課題は「枯れた技術をどう産業に生かすか」--国内第一人者が語るARの未来像」(CNET Japan)
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20388952-2,00.htm